近年、消費者はECサイトや実店舗、SNS、モバイルアプリなど複数のチャネルを利用しながら商品やサービスを購入するようになっています。そのため企業には、販売チャネルごとに異なる体験を提供するのではなく、顧客接点全体を通じて利便性が高く一貫した顧客体験を提供することが求められています。
こうした背景から注目されているのが、オムニチャネルです。顧客接点の多様化が進むなか、顧客満足度の向上や売上拡大を実現するための取り組みとして、多くの企業がオムニチャネル顧客体験の提供を推進しています。
本記事では、オムニチャネル顧客体験の意味や重要性、提供方法、企業の成功事例について解説します。

オムニチャネル顧客体験とは
オムニチャネル顧客体験とは、ECサイトや実店舗、モバイルアプリ、SNS、メールなど複数の顧客接点を統合し、どの接点からでも顧客に一貫したサービスや購入体験を提供する考え方です。企業は購買履歴などの顧客データや在庫情報などをチャネル間で統合し、スムーズな購買体験を提供します。
しかし、在庫管理やフルフィルメントなどのバックオフィスのシステムが分断された状態では、オムニチャネル顧客体験は限定的なものになり、データの同期ミスや二重管理など、システム運用費や業務負担も増加してしまう可能性があります。
より良いオムニチャネル顧客体験を提供するには、あらゆるデータをリアルタイムに一元化するユニファイドコマースを導入することも大切です。実際、Shopifyのレポート(英語)によると、ユニファイドコマースを導入したビジネスは総所有コスト(TCO)を22%削減しています。
このように、オムニチャネル顧客体験は単に複数のチャネルを展開するだけでなく、チャネル間の情報を連携することで、顧客に一貫した購買体験を提供します。

オムニチャネル顧客体験で注目されるタッチポイント
- ソーシャルコマース:米国のソーシャルコマース市場の収益は2027年までに1,180億ドル近くに達するとする調査(英語)もあるように、SNS経由の売り上げがECサイトでも重要になってきています。
- チャットコマース:メッセージアプリなどのチャネルを通じたチャットコマースの市場規模は、2025年の88億ドルから2036年には398億ドルに成長するという調査(英語)もあり、カスタマーサポートなどにおいて重要な役割を果たしています。
- オンラインで購入し店舗で受け取る(BOPIS):2024年のEC利用者を対象とした調査(英語)では、半数以上が過去1年間に店舗での受け取りを利用しており、BOPISでの売り上げは2027年までに2,040億ドルに達すると予測されています。
- ARショッピング:ARを含む国内メタバース市場は2028年度には1兆8,700億円まで拡大すると予測されるなど、小売業界やEC業界でもARが重要なチャネルになってきています。
- ライブコマース:NTTコムリサーチの調査によると、ライブコマース視聴経験者のうち、購入に至ったのは20代で66.2%、30代でも59.6%と多く、今後もライブコマース市場の拡大が予想されます。

オムニチャネル顧客体験が重要な理由
売上向上が期待できる
オムニチャネル戦略は、顧客体験の向上だけでなく企業の売上アップにもつながります。例えば、店舗で在庫切れの商品をECサイトから購入できるようにしたり、オンラインで注文した商品を店舗で受け取れるようにしたりすることで、販売機会の損失を防ぐことができます。
また、顧客データを統合することで、過去の購入履歴や閲覧履歴に基づいた商品提案が可能になります。その結果、クロスセルやアップセルを促しやすくなり、客単価の向上も期待できます。
事実、EY(イーワイ)のPOS Market Report(英語)によると、ユニファイドコマース戦略を導入した小売事業者は、平均8.9%の売上向上と5%の業務効率向上を実現しています。
顧客との接点が増加している
スマートフォンやSNSの普及により、消費者が商品を購入するまでの行動は以前よりも複雑化しています。SNSや動画サイトで商品を知り、ECサイトで詳細を確認し、口コミやレビューを比較したうえで購入を判断することも珍しくありません。
このような状況では、企業がチャネルごとに異なる情報や体験を提供していると、顧客は混乱や不便を感じる可能性があります。そのため企業には、個別のチャネルを最適化するだけでなく、顧客接点全体を通じて一貫した体験を提供することが求められています。
顧客満足度とロイヤルティの向上につながる
商品や価格だけで差別化することが難しくなっている現在、顧客体験は企業の重要な競争優位性の一つとなっています。顧客は商品そのものだけでなく、購入前後の体験やサポート対応も含めてブランドを評価しています。
例えば、ECサイトでの購入履歴や問い合わせ履歴が実店舗でも共有されていれば、顧客は同じ説明を繰り返す必要がなく、よりスムーズな対応を受けられます。また、過去の購買履歴や行動データを活用することで、パーソナライズした提案や情報提供も可能になります。
こうした体験の積み重ねは顧客満足度のアップにつながるだけでなく、ブランドへの信頼や愛着を醸成し、ブランドロイヤルティの向上にも寄与します。その結果、リピート購入や継続的な利用の促進が期待できます。
業務効率化やデータ活用を実現できる
オムニチャネルでは、顧客情報や在庫情報、注文情報などを統合して管理します。これにより、チャネルごとに個別管理する場合と比べて業務の重複を削減しやすくなります。例えば、在庫情報をリアルタイムで共有できれば、欠品や過剰在庫のリスクを抑えられるほか、店舗スタッフも正確な情報に基づいて顧客対応を行えます。
さらに、チャネルごとに分散していたデータを統合することで、顧客の行動を横断的に分析できるようになります。どのチャネルが購買につながりやすいのか、どのような商品に関心を持っているのかを把握しやすくなり、マーケティング施策や商品戦略の改善にも活用できます。また、顧客、商品、在庫に関するデータを一元管理することで、より迅速かつ精度の高い意思決定も可能になります。こうしたデータ活用は、業務効率化だけでなく、より質の高い顧客体験の提供にもつながります。
顧客はシームレスな購買体験を求めている
近年の消費者は、オンラインとオフラインを自由に行き来できる利便性の高い購買体験を求めています。オンラインで注文した商品を店舗で受け取ったり、店舗で商品を確認しながらオンラインでレビューをチェックしたりするのはその代表例です。
また、顧客にとってECサイトや実店舗は別々の存在ではなく、同じブランドとの接点です。そのため、チャネルごとに会員情報を登録し直したり、利用できるサービスが異なったりすると、顧客体験の低下につながります。オムニチャネル顧客体験を提供することで、複数チャネルにまたがるカスタマージャーニーを把握できるようになり、セールスファネルの途中で顧客が離脱してしまうポイントを特定し、改善できます。

オムニチャネル顧客体験を提供する方法
顧客情報を一元管理する
オムニチャネルを実現するためには、ECサイトや実店舗、アプリなどに分散している顧客情報を統合する必要があります。具体的には、会員情報や購入履歴、閲覧履歴などを一元管理し、チャネルをまたいで参照できる環境を整備します。
顧客情報を統合することで、顧客がどのチャネルを利用しているのか、どのような商品に関心を持っているのかを把握しやすくなります。また、チャネルを横断したデータ活用も可能になるため、ターゲットオーディエンスをより精緻に分類し、それぞれに適した商品提案やマーケティング施策を実施しやすくなります。
こうした仕組みは、CRM(顧客関係管理システム)やCDP(顧客データ基盤)などを活用することで構築できます。
在庫情報を統合する
在庫情報もチャネルをまたいで管理できるようにすることが重要です。在庫情報がチャネルごとに分断されている場合、店舗在庫とEC在庫を別々に管理する必要があり、在庫状況の不一致が発生する可能性があります。
そのため、ECサイト、実店舗、倉庫などに分散している在庫データを連携し、共通の在庫情報として管理できる仕組みを構築します。これにより、店舗在庫の確認や店舗受取などの施策にも対応しやすくなります。
在庫情報の統合は、在庫管理システムやPOSシステムなどを連携することで実現できます。
チャネル間で一貫した体験を提供する
顧客接点が増えるほど、チャネルごとの運用差異も発生しやすくなります。そのため、商品情報や価格だけでなく、会員制度やキャンペーン内容、交換、返品ポリシー、カスタマーサポート対応の基準なども含めて統一することが重要です。
また、店舗、ECサイト、SNSなど複数のチャネルで発信する情報やブランドボイスに一貫性を持たせることも求められます。そのためには、運用ルールやブランドガイドラインを整備し、各チャネルで同じ品質の体験を提供できる体制を構築する必要があります。
データを活用して顧客体験を最適化する
オムニチャネルでは、顧客がどのチャネルを経由して購入したのか、どの商品に関心を持っているのかなど、多様なデータが蓄積されます。こうしたデータを活用してカスタマージャーニーマップを作成することで、顧客の行動やニーズ、離脱しやすいポイントを可視化しやすくなります。そのうえで、顧客データを統合、分析し、顧客ごとの行動やニーズを把握できる環境を構築することも重要です。
例えば、過去の購入履歴や閲覧履歴に基づいて商品を提案したり、顧客ごとに最適なメールやキャンペーンを配信したりする施策が挙げられます。また、どのチャネルが成果につながっているのかを分析することで、マーケティング施策の改善や顧客体験の最適化にも役立ちます。こうした取り組みは、マーケティングオートメーション(MA)ツールやメール配信システム、レコメンド機能、アクセス解析ツールなどを活用することで実現できます。
顧客サポートを統合する
問い合わせ対応やアフターサポートも、チャネルごとに分断しないことが重要です。そのため、チャット、メール、電話、店舗など複数の問い合わせ窓口の履歴を一元管理し、どの窓口でも同じ情報を参照できる環境を整備します。
また、顧客情報と対応履歴を担当者間で共有できる仕組みを構築することで、対応状況の引き継ぎや情報共有を行いやすくなります。こうした体制は、問い合わせ管理システムやCRMを連携し、顧客対応履歴を一箇所で管理することで実現できます。
柔軟な購入、受取方法を提供する
オムニチャネルでは、購入チャネルと受取チャネルを切り離して設計することも重要です。そのためには、注文情報と在庫情報を連携し、チャネルを横断した購買体験を実現できる環境を整備する必要があります。
代表的な施策としては、オンラインで注文した商品を店舗で受け取る「店舗受取(BOPIS)」や、店舗在庫を活用して商品を発送する「店舗発送」などがあります。こうした仕組みを実現するためには、ECサイト、POSシステム、在庫管理システムなどを連携し、注文情報や在庫情報をリアルタイムで共有できる環境を構築します。
また、店舗受取や店舗発送に対応することで、店舗在庫とEC在庫を横断的に活用しやすくなります。
オムニチャネル顧客体験の成功事例
CLASSICS the Small Luxury
ハンカチ専門店のCLASSICS the Small Luxury(クラシクス・ザ・スモールラグジュアリー)は、実店舗とECサイトの顧客情報や在庫情報を一元管理し、オムニチャネル顧客体験を提供しています。
同社は、Shopify POS(ショッピファイポス)の導入により、スタッフがどの店舗でも顧客の購入履歴や購入時の要望などを確認できるようになり、顧客それぞれを理解した接客ができるようになりました。また、店舗とECの在庫情報の連携だけでなく、一部店舗ではオンライン購入商品の店舗受取にも対応しています。
よーじや
京都発の化粧品・雑貨ブランドであるよーじやは、店舗とオンラインショップの顧客情報やポイントを連携し、データ活用を強化してオムニチャネル顧客体験を提供しています。
同社はアプリを活用して顧客情報を一元管理し、店舗とECの購買データを横断的に分析できる環境を整備しました。これにより、店舗ごとの購買傾向を分析しやすくなり、分析結果を販促施策の検討に活用しています。顧客データを活用した店舗運営を進め、実店舗とECを連携した取り組みを推進している点が特徴です。
まとめ
消費者の購買行動が複雑化し、ECサイトや実店舗、アプリ、SNSなど複数のチャネルを横断して商品やサービスを利用することが一般的になっています。そのため企業には、顧客情報や在庫情報を連携し、チャネルを問わず一貫した顧客体験を提供できる体制の構築が求められています。
オムニチャネル顧客体験を実現するためには、顧客情報や在庫情報の一元管理、チャネル間での体験の統一、データ活用による顧客理解の深化、柔軟な購入、受取方法の提供などが重要です。また、今回紹介した企業のように、顧客データの活用や店舗とECの連携を進めることで、顧客満足度の向上や販売機会の拡大も期待できます。競争環境や顧客行動が変化し続けるなか、オムニチャネル顧客体験の構築は企業の重要な競争力の一つとなるでしょう。
オムニチャネル顧客体験に関するよくある質問
オムニチャネル顧客体験とは?
オムニチャネル顧客体験とは、ECサイトや実店舗、モバイルアプリ、SNS、メールなど複数の顧客接点を連携させ、顧客に一貫した体験を提供する考え方です。
オムニチャネルとユニファイドコマースの違いは?
オムニチャネルは、実店舗やECサイト、アプリなど複数のチャネルを連携し、一貫した顧客体験を提供する考え方です。一方、ユニファイドコマースは顧客との接点だけでなく、在庫管理や決済システム、フルフィルメントなども単一のシステムで統合管理する仕組みを指します。
オムニチャネル顧客体験を実現するために活用されるシステムは?
CRM(顧客関係管理システム)やCDP(顧客データ基盤)、POSシステム、在庫管理システムなどが活用されます。これらのシステムを連携し、顧客情報や在庫情報、注文情報を一元管理できる環境を整備することが、オムニチャネル顧客体験の実現につながります。
オムニチャネル顧客体験が重要な理由は?
- 顧客接点が増加している
- 顧客はシームレスな購買体験を求めている
- 顧客満足度とロイヤルティの向上につながる
- 売上向上が期待できる
- 業務効率化やデータ活用を実現できる
オムニチャネル顧客体験を提供する方法は?
- 顧客情報を一元管理する
- 在庫情報を統合する
- チャネル間で一貫した体験を提供する
- データを活用して顧客体験を最適化する
- 顧客サポートを統合する
- 柔軟な購入、受取方法を提供する




