高速かつ大容量の通信システムである5Gの環境整備が進み、ARの活用が小売業界にも広がってきています。実際、ARをECサイトに取り入れるなど、ショッピング体験の向上を目的に導入する企業が増加しています。
しかし、「そもそもARとはどういったものか」「どのようなツールを利用すればARショッピングを実現できるのか」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ARショッピングの概要や注目のトレンド、活用事例とあわせて、ARコンテンツの制作や配信に活用できる代表的なツールを紹介します。

ARショッピングとは
ARショッピングとは、AR(Augmented Reality:拡張現実)技術を活用し、スマートフォンやデバイスのカメラを通して現実空間にデジタル情報を重ね、商品がその場にあるかのようにサイズ感や利用イメージなどを確認できるショッピング体験のことです。
近年はスマートフォンの性能向上やAR技術の進化により、専用機器がなくてもAR体験を提供できるサービスも増えています。そのため、ARショッピングはアパレルや家具、コスメ業界をはじめ、さまざまなビジネスで導入が進んでいます。
ARとVRの違い
ARとVR(Virtual Reality:仮想現実)は、体験する場所に違いがあります。
- AR:現実世界にデジタル情報を重ねて表示する技術であり、自宅の部屋に家具を配置した状態を表示したり、メガネを試着したりできます。
- VR:仮想世界の中で体験する技術であり、仮想店舗を訪れたり、ショールームを見学したりできます。

AR/VR市場の今後
ARやVRを含むXR(クロスリアリティ/エクステンデッドリアリティ)市場は、世界的に成長が続いています。Grand View Researchの調査(英語)によると、AR市場は2026年から2033年にかけて年平均成長率(CAGR)29.7%で成長すると予測されています。また、総務省も国内XR関連市場の拡大を見込んでおり、小売業界やEC業界でも関連技術への投資が進んでいます。
こうした市場成長を支えている要因の一つが、スマートフォンやAR対応デバイスの進化です。近年はカメラ性能や処理能力の向上により、高品質なAR体験をスマートフォンだけで提供できるようになりました。また、アプリのインストールが不要なWebAR(ウェブエーアール)も普及しており、企業側の導入ハードルも下がっています。
さらに、AI技術の進化もAR市場の成長を支える要因の一つです。AIとの連携によってARショッピングの活用領域は広がっており、今後はより高度でパーソナライズされた購買体験の実現が期待されています。
また、ARは顧客体験の向上だけでなく、コンバージョン率や購買率の改善にも貢献すると期待されています。従来のECサイトでは、商品の検討材料は画像や説明文などだけで、サイズ感や使用イメージが分かりにくく、購入に不安を感じるケースもあります。しかし、3DモデルやARで商品を確認できるようにすることで、顧客は利用イメージをリアルに把握でき、購入の判断がしやすくなります。そのため、ARや3Dコンテンツは売上向上や顧客体験の改善を目的とした施策として、多くのEC事業者から注目を集めています。
Shopify(ショッピファイ)をはじめとするECプラットフォームでも、3DモデルやARコンテンツを活用しやすい環境が整備されています。以前は大規模な開発が必要だったAR機能も導入しやすくなっており、今後は大手企業だけでなくスモールビジネスにも活用が広がっていくでしょう。
このように、ARショッピングを支える市場環境や技術基盤は着実に成熟しています。今後は顧客体験の向上と売上アップの両方を実現する手段として、ARの活用がさらに一般化していくでしょう。

2026年に注目したいARショッピングのトレンド6選
1. バーチャル試着
バーチャル試着とは、AR技術を活用して服やメガネ、アクセサリー、コスメなどをスマートフォンやパソコンの画面上で試せる仕組みのことです。ARショッピングの代表的な活用方法の一つとして、ファッションやビューティー業界を中心に導入が進んでいます。
近年は顔認識や身体計測技術の進化により、従来よりも高精度な試着体験が可能になっています。商品を実際に身に着けなくても着用イメージを確認できるため、オンライン上でも商品を比較・検討しやすくなっています。
また、AI技術との連携によって、サイズ推定や商品レコメンドなどの機能も拡大し、ARによる試着体験とAIによる分析を組み合わせた購買体験を提供する取り組みも進んでいます。
2. ソーシャルAR
ソーシャルARとは、Instagram(インスタグラム)やTikTok(ティックトック)などのSNS上で利用できる、ARフィルターを活用したショッピング体験のことです。ユーザーはスマートフォンのカメラを通して商品を試したりARエフェクトを体験したりしてから購入できます。
近年はソーシャルコマースの拡大に伴い、SNS上で商品を発見しそのまま購入するという購買行動が広がっています。こうした流れの中で、ARフィルターは商品の利用イメージやブランドの世界観を視覚的に伝える手段として利用されています。
また、SNS上で共有しやすいという特徴があり、ブランド認知やユーザーとの接点づくりにも活用されています。
3. ARでの試し置き
ARでの試し置きとは、家具や家電、雑貨などの3Dモデルを現実空間へ表示し、自宅やオフィスに配置した状態を確認できる仕組みのことです。ARショッピングの中でも、家具、インテリア業界を中心に活用されています。
近年はスマートフォンの空間認識技術が向上し、商品のサイズ感や配置イメージを確認しやすくなっています。複数の商品を組み合わせたレイアウト確認や、部屋全体とのバランス確認などにも活用されています。
また、3Dモデル制作技術やレンダリング技術の進化によって、商品の質感や色味も表現しやすくなっており、オンライン上で商品の理解を深める手段として活用されています。
4. WebAR
WebARとは、専用アプリをインストールすることなく、ウェブブラウザ上でAR体験を提供する仕組みのことです。URLや二次元コードからアクセスできるため、ユーザーが手軽にARコンテンツを利用できる点が特徴です。
従来のARは専用アプリが必要なケースもありましたが、WebARではECサイトや商品ページから直接AR体験へ誘導できるため、ユーザー導線がシンプルになり、利用のハードルが下がります。
また、ウェブ技術の進化によって表現力も向上しており、商品の3D表示や試し置き機能などをブラウザ上で提供する取り組みも見られます。ARショッピングの普及を支える技術の一つとして注目されています。
5. AI連携型AR
AI連携型ARとは、AI技術とAR技術を組み合わせることで、ユーザーごとに最適化されたショッピング体験を提供する仕組みのことです。ARショッピングの可能性を広げる新たな手法として注目されています。
進化したAI画像解析や身体計測、商品レコメンド技術を活用し、体型や顔立ちに応じた商品提案や、より精度の高い試着体験を提供できます。
さらに、生成AIを活用した3Dモデル制作やコンテンツ生成なども登場しています。AIとARを組み合わせることで、より手軽にパーソナライズされた購買体験が提供できます。
6. 店頭AR
店頭ARとは、実店舗でAR技術を活用し、新しい購買体験を提供する取り組みのことです。スマートミラーによるバーチャル試着や商品情報の表示、ARを活用した体験型コンテンツなどが代表例として挙げられます。
近年はオンラインとオフラインを連携させるOMOやオムニチャネル施策への関心が高まっており、店舗においてもARを活用する事例が見られます。
また、ARを活用したスタンプラリーやゲーム要素を取り入れたコンテンツなど、商品販売だけでなく、ブランド体験を提供する手段としても活用されています。
ARショッピングの活用事例5選
- JINS:オンラインでメガネを試着できるバーチャル試着
- LOWYA:AR家具配置による購入支援
- ニトリ:WebARを活用した家具の試し置き
- ZOZO:AIとARを組み合わせたパーソナライズ体験
- Aquall:店頭ARを活用したブランド体験
1. JINS:オンラインでメガネを試着できるバーチャル試着
JINS(ジンズ)では、オンライン上でメガネを試着できる「JINS VIRTUAL FIT(ジンズ バーチャルフィット)」を提供しています。
スマートフォンやパソコンのカメラを利用して顔にメガネを重ねて表示できるため、店舗へ足を運ばなくても商品の見え方を確認できます。また、複数フレームの掛け比べやPD(瞳孔間距離)の調整にも対応しています。さらに、AIを活用した「JINS BRAIN(ジンズブレイン)」では、試着結果をもとに似合い度を判定する機能も提供しており、オンライン上での商品選びをサポートしています。
2. LOWYA:AR家具配置による購入支援
LOWYA(ロウヤ)では、「LOWYA AR」を提供しており、家具の3Dモデルを実際の部屋へ配置して確認できます。
商品ページからAR機能を起動することで、サイズ感や色味、部屋との相性を購入前に確認できる点が特徴です。また、家具をさまざまな角度から確認できるため、写真だけでは伝わりにくい商品のイメージを把握しやすくなっています。オンラインで家具を購入する際の不安軽減につながる取り組みです。
3. ニトリ:WebARを活用した家具の試し置き
ニトリでは、「スマホで簡単!3Dで試し置き」を提供しています。商品ページからAR機能を起動することで、アプリをインストールすることなく家具を部屋に配置して確認できます。
実際の空間に近い形でサイズ感や配置イメージを確認できるため、購入前の比較や検討を行いやすい点が特徴です。ウェブブラウザ上で手軽に利用できるWebARの活用事例として注目されています。
4. ZOZO:AIとARを組み合わせたパーソナライズ体験
ZOZO(ゾゾ)では、ZOZOCOSME(ゾゾコスメ)で提供する「ARメイク」や、WEAR(ウェアー)の「お試しメイク」機能を通じて、AIとARを組み合わせた購買体験を提供しています。
ユーザーはAR上でコスメの色味を試しながら、自分に合う商品を比較、検討できます。また、AIによる好み診断なども導入されており、一人ひとりに合わせた商品提案を行う取り組みも進められています。
5. Aquall:店頭ARを活用したブランド体験
ヘアケアブランドAquall(アクオル)では、ドラッグストアの実店舗でAR動画を活用したキャンペーンを実施しました。
店頭の二次元コードを読み取ることで、商品の世界観やインフルエンサーによるおすすめポイントの紹介などを、ARコンテンツとして体験できます。商品情報の提供による購買促進だけでなく、ユーザーとの接点づくりやブランド体験の強化を目的とした、店頭ARの活用事例です。
おすすめのARショッピングアプリ4選
1. Shopify AR(ショッピファイエーアール)
Shopify AR(ショッピファイエーアール)は、Shopifyの商品メディア機能の一部として提供されているAR対応機能です。商品画像や動画とあわせて3DモデルやAR表示を商品ページ上で提供できるため、商品の特徴や利用イメージをより分かりやすく伝えられます。Shopifyの商品ページに3Dモデルを追加することで、ユーザーは対応するスマートフォンやタブレットから商品を現実空間へ表示できます。商品を実際の空間に配置した状態で確認できるほか、3Dモデルを回転させながら細部を閲覧することも可能です。3Dモデルはアプリでも簡単に作成できます。
2. LESSAR(レッサー)
LESSAR(レッサー)は、クラウドサーカス株式会社が提供するWebARサービスです。専用アプリを必要とせず、二次元コードやURLからARコンテンツを表示できます。画像認識AR、平面認識AR、3Dモデル表示など複数のAR形式に対応しており、ブラウザ上でAR体験を提供できるため、ECサイトにもARショッピングを取り入れやすい点が特徴です。キャンペーンや販促施策向けのテンプレートも用意されており、WebARを中心としたARコンテンツの配信に対応しています。
3. COCOAR(ココアル)
COCOAR(ココアル)は、スターティアレイズ株式会社が提供するARプラットフォームです。チラシやカタログ、ポスター、商品パッケージなどの印刷物をARの起点として利用できる点が特徴です。対象物をスマートフォンで読み取ることで、動画や画像、ウェブサイトなどのコンテンツを表示できます。紙媒体とデジタルコンテンツを連携させたARショッピング体験を提供できるため、ポップアップストアなどでのオフラインマーケティング施策にも活用できます。
4. STYLY WebAR(スタイリーウェブエーアール)
STYLY WebAR(スタイリーウェブエーアール)は、株式会社palan(パラン)が提供するWebAR作成サービスです。ノーコードでARコンテンツを作成できる点が特徴で、画像認識AR、平面認識AR、3Dモデル表示などの機能に対応しています。ブラウザ上でARコンテンツの制作から公開まで行うことができ、作成したコンテンツはURLや二次元コードを通じて配信できるため、ECサイトなどに取り入れやすいのも魅力です。
まとめ
ARショッピングは、オンラインショッピングで商品のサイズ感や利用イメージを分かりやすく伝える手段として普及が進んでいます。バーチャル試着やAR家具配置など活用方法は広がっており、アパレル、家具、コスメをはじめとするさまざまな業界で導入が進んでいます。
また、AR技術の進化に加え、AIやWebARの普及によって導入のハードルも下がっています。実際に、国内企業による活用事例や、ARコンテンツの制作・配信を支援するツールも増えており、企業規模を問わずAR活用を検討しやすい環境が整いつつあります。
顧客体験の向上が重視される中、ARショッピングは新たな購買体験の選択肢の一つとなっています。自社の商品や販売チャネル、ターゲット市場に適した形で活用することで、より分かりやすく効果的な商品訴求や、より満足度の高い購買体験の提供につなげられるでしょう。
ARショッピングに関するよくある質問
ARショッピングとは?
ARショッピングとは、AR技術を活用したショッピング体験のことです。スマートフォンやタブレットのカメラを通して現実空間にデジタル情報を重ねて表示し、商品のサイズ感や利用イメージを確認しながら購入を検討できます。
ARとVRの違いは?
- AR:現実世界にデジタル情報を重ねて表示する技術であり、自宅の部屋に家具を配置した状態を表示したり、メガネを試着したりできます。
- VR:仮想世界の中で体験する技術であり、仮想店舗を訪れたり、ショールームを見学したりできます。
ARショッピングを導入するメリットは?
- 家具などの配置イメージやサイズ感を購入前に確認してもらえるため、返品などを減らせる
- バーチャル試着などで商品の見え方を把握してもらえるため、試着の対応やサンプルを準備する手間やコストが減らせる
- オンラインでも実店舗に近い購買体験を提供できる
ARショッピングはどのような業界で活用されている?
ARショッピングは、アパレル、家具、インテリア、コスメ、アイウェアなどを中心に活用されています。特に商品のサイズ感や見た目が購入判断に影響しやすい業界で導入が進んでいます。
2026年に注目したいARショッピングのトレンドは?
- バーチャル試着:服やメガネ、コスメなどをオンライン上で試着できる仕組み
- ソーシャルAR:SNS上でARフィルターを活用し、商品体験から購入検討まで行える手法
- ARでの試し置き:家具や家電などを現実空間に配置し、サイズ感やレイアウトを確認できる仕組み
- WebAR:専用アプリ不要で、ウェブブラウザ上からAR体験を提供する技術
- AI連携型AR:AIによる画像解析やレコメンド機能とARを組み合わせた手法
- 店頭AR:実店舗でARを活用し、バーチャル試着や商品情報の表示などを行う取り組み




